モンタナテンカラ紀行 (その4)  ユタの3人組

 

ユタ州から来た3人組とファイアホール(Firehole) 川に向った。なんでFireholeなのかと言えば、川沿いの各処で水蒸気が上がっていて 、そこは温泉の穴が開いているためらしい。

ウキィぺデアによれば、イエローストーン公園の地下には非常に大量のマグマが溜まっていて、近い将来(数十万年以内)にまた噴火を起こす可能性が高いとされている。地下のマグマだまりのサイズは 、ほぼイエローストーン国立公園全体の面積に等しい途方もない大きさであることが確認されている。そのためマグマで熱せられた温泉がいたるところにある。

3人組はロブとエリック、そしてジョーンである。年齢はジョーンがおっさんで、他の2人は20代だろう。そろってTekara Guide.Comの緑のキャップをかぶっている。室内でもキャップをとったことがないので、頭の様子はわからない。聞けばもう5日間キャンプしていて、この間、一度もシャワーも浴びず着がえもしていないとのこと。徹底して貧乏テンカラを実践しているテンカラマンの鏡みたいなメンバーである。

ファイアホール川はトローンと流れるフライ向きの川で、川底は砂礫でところどころに水草が茂っている。大きな石がないため魚は水草の陰や後ろに隠れているようだ。透明度は高く、なによりコバルトブルーの空と乾燥した平原がモンタナを象徴していて、月並みな言葉であるが天国にいるような幸せ感がある。 天国に行ったことはないけれど、タブン。

このあたりは標高で2000m、緯度は北海道の稚内と同じだが暑い。日差しは強いが湿度が低くカラッとした暑さで、暑がりで「人生は汗かき、恥かき 」の私でも一滴の汗をかかない徹底したドライである。それだけにすぐに喉はヒリヒリ。水は欠かせない。 ビーフジャーキーが乾いた喉を通らず、あぶなくモンタナの土になるところだった。

3人は私の釣りに興味深々である。ダニエルのWebで私のことは知っていて、その私が目の前にいるのだから。第1投をプリーズというので、注目の中、数投目にラインがかすかに止まってブラウンをヒットした。泣き尺だ。

それを見届けると、サッとそれぞれ釣りを始める。全員がレベルラインである。質問することもない。後ろをついて見ることもない。「見て学べ、ビク持ち3年」などの日本の教え方を知ったらどう思うだろうか。自分が見て感じたことを即実践するところは日本人とは違っているように思う。

3人の性格がそのまま釣りに出ている。エリックは若いだけにともかく猪突タイプである。25歳くらいだろうか。歩き方もバシャバシャと荒い。前振りが強いのでラインが飛ばない。餌釣りのように毛バリを長い間流すものの、それでもいくつか掛かるのは 常に先行したからだろう。キャスティングと流す距離をアドバイスする。

ロンはドクターだけに冷静である。全体を見る状況判断が的確である。猫足でアプローチし、ここぞというところでは膝をつき、腰を落としてキャスティングする。川ぎしの草つきの陰で33cmのブラウンを掛ける。この中では一番うまい。「ロンは上手だね」と褒めると、鼻をスルスルと長くする動作をしたので、鼻が伸びるのは万国共通なのだろう。

ジョーンはもの静かでほとんど話さない。静かなテンカラで粘り強い。ケンドウニダン、アイキドウサンダンと言うので ? と聞けば、剣道の先生をしていて2段、合気道は3段とのことである。合気道3段になるまでに15年かかったとのこと。どうりで動作にムダがない。 日本の釣り、テンカラに関心があるのはこんな背景があるのだろう。

私のスパッツを見てなんて便利なんだと関心しきりである。アメリカにはないらしい。彼らは厚いゴムを切ってウエイダーに貼っていたり、ジョーンはアメリカ軍のひざ当てを使っていた。ダニエルがTenkara USAブランドで売り出せばビジネスになる。

彼らとの楽しい釣りも午前中だけである。明日から仕事とのことでこれからユタ州まで帰るとのこと。6時間かかるそうだ。日本の6時間と違って、東京から福岡、札幌ぐらいの距離らしい。彼らはユタ州のソルトレイク市に住んでいるらしい。ソルトレイクから1時間以内に25本の渓流があり、どこでもテンカラができるようだ。 これからもずっと記憶に残る3人ともここでお別れである。テンカラ大好き、アメリカの若者の中にこんなテンカラ馬鹿がいるとは。いつかどこかで再会したいメンバーである。

イエローストーンと言えば間欠泉である。 これを見ずしてイエローストーンに来たとは言えない。途中、野生のバイソンが道路の横で草をはんでいる。人も車も恐れる様子はない。バイソンは牛とは違う。あたりまえだけど。牛は四角い体型だが、バイソンは一回り大きな茶色い三角形である。昨日、お前の親戚を食べたんだよ、ついでにお前もと、フォークとナイフを持ってバイソンの尻を追いかけ・・なかった。機嫌によっては車に体当たりして横倒しにするらしい。

有名な間欠泉についた。次の吹き出しは2時45分。 間欠泉を囲むようにベンチがあり、そこではそろそろかと皆、カメラを構えている。まずクジラの潮吹きのような水蒸気があがり、その後、一気に吹きあがる。その高さは50mほどあるだろうか。2分ほどで吹き出しが終わり、それとともに潮が引くように人も動く。

この近くで竿を出すことになった。でもいたるところで水蒸気が出ている。温泉水が流れ込んだり、川底から湧いているので水温が高いかもしれない。ガイドのジョンとダニエルが偵察に行き、頭の上でOKマーク。しかし、水がぬるい。20℃あるのでは。これは鮎の温度だ。案の上、ほとんどあたりなし。ここで釣りをして、合わせが強くて後ろに飛んだ魚は温泉に落ちるそうで、たちまちボイルドフィッシュ。釣り人はそれを見こして塩、コショーを持っているとか。これはアメリカンジョーク。

温泉水のないところに移動。ここぞという場所だがアタリは少ない。アタリがあっても小さいアタリだ。ダニエルも6バイト、バット、ノーフィッシュ。明らかに毛バリをセレクトしている。たまにかかるのは25cm程度のレインボーとブラウンだ。時間が8時近くなってそれまでの散発的なライズが頻繁になってきた。しかし、アタリはない。明らかに水面直下を流れる小さい虫を食っている。

テンカラではお手上げだ。トローンと流れる水面にライズ。開けたバックキャストのできる平原。これはフライマンの世界である。モンタナがフライフィッシングの聖地と言われる所以だろう。ダニエルは粘る。ダメだよダニエル。もう帰ろうよ。それでも粘る。最後はギブアップ。いいんだよ。こういうところはフライマンに任せれば。

8時半を過ぎ、モンタナにも遅い夕暮れが来た。夕焼けと雲、ところどこどろの水蒸気で記憶に残る夕暮れとなった。明日はイヴォンとクレイグがテンカラ向きの川に案内してくれるという。明日に期待しよう。

エリックの取り込み(動画)

水草(動画)

間欠泉(動画)