モンタナテンカラ紀行 (その5)  イヴォンと釣る

 

今日は アウトドアウェア・ギヤのパタゴニアの創設者のイヴォンと 、友人のクレイグがテンカラ向きの川を案内してくれるという。パタゴニア社を創設したイヴォンのビジネスと環境への共存についてはここを参考にされたい。

イヴォンがダニエルをかっていることがわかる。おそらくベンチャー会社創設の頃の自分とダニエルのそれを重ねあわせているからだろう。イヴォンはパタゴニアの記事の中でダニエルを採り上げている。一流ブランドの創設者が推奨することからTenkara USAが次第に知られるようになったらしい。ダニエルにとってイヴォンは恩人である。

クレイグは地元のウェスト・イエローンストーンの町でフライショップの店を構えている。ここはフライフィッシングのメッカなので小さな町にいくつものフライショップがある。クレイグの店も朝からお客が入っていた。ダニエルのTenkara USAの竿のコーナーが私の写真とともにある。すでに竿は1本しかなく、それなりに売れているようだ。ダニエルにとってクレイグは顧客の一人である。

クレイグはイエローストーンの魚に精通していて、グレーリングとゴールデントラウトの場所も知っているようだ。サミットではこれらを掛ける映像を見せてくれた。まだ見ぬグレーリングを釣りたかったが、だいぶ奥になるようで今回は、と言っても次回はないだろうから見ることはこれからもないだろう。

待ち合わせの場所に向けていったんアイダホ州に入る。アイダホと言えば日本ではポテトだが、アメリカでもアイダホはポテトで有名とのことである。待ち合わせたのはウェスト・マディソンリバーである。中州や河原がなく50mぐらいの川幅いっぱいに流れている。合流して朝の挨拶。今日はその支流をやるという。

支流のダートをどんどん上がっていく。日本の渓流と違い落差がなくフラットな渓相だ。キャンピングカーもあるところをみるとどうやらキャンプ場を走っているらしい。といっても広大で、管理棟などなくエリア内で勝手にキャンプしてOK。ただし熊に襲われても自己責任なのだろう。

林道のドンづまりに着いた。見渡すかぎりの草地と樹木の少ない山のつらなりである。イヴォンはこれがTraditional Montanaと言う。典型的なモンタナの風景という意味のようだ。下には小さい流れが。そこをやろうということに。こんな山の中だから誰も釣りなどしないだろうと思ったら大間違いでしっかり踏み後がついている。結構人が入っているのだ。

第1投をプリーズというので、ここでもお初のキャスティング。衆目の中でアタリなし。やがて上流に上がるにつれてレインボーのアタリがボチボチ。でも25cm程度で小さい。やがてイヴォンが上がってきて私のやったところで2匹という。毛バリは? ビーズヘッドで沈めたという。日本のテンカラでは禁じ手なんだけど (誰が決めた)、ここはアメリカだ。

魚が小さいので下流に行くことになった。下流ではデカイのが出るという。下流も相変わらず段差のない流れでところどころにポイントが。ここぞというところではまず出るが数は少ない。イヴォンは今から25年前にもらったという3.2mのグラスのテンカラ竿を使っていた。ずんぐりと太短 く折れる心配のない竿だ。メーカー名はなかった。

イヴォンのテンカラはテーパーラインを使っていて竿を立てて構えることは少なく、ほとんどがダウンクロスである。毛バリはビーズヘッドを使ったり、テンカラ毛バリを使い分けしている。クレイグの釣りも同じようである。 クレイグは上流にキャスティングするものの、竿を立てることなくフライロッドのように水平にしてアタリを待つスタイルである。

つまり、テンカラといってもフライロッドがテンカラ竿に替わっただけのようだ。本物のテンカラを見るのも初めてかも。だから私やダニエルが 竿を高く構え、細いレベルラインでピンスポットに毛バリを落とし、糸ふけでアタリを取ることに驚いたようだ。永年、フライをやってきたため 、テンカラになったからといって重いテーパーラインを使えばフライスタイルになるのは当然かもしれない。

こんな小さい支流だがデカイのがいるというのは本当だった。右岸から小さい支流が入り込み、その流れ込みがトロンと合わさって小さな淵状になっているところでラインが止まりズンと来た。竿を動かしてもビクリともしない。

これは粘るしかない。しばらくして魚が上流にグイグイ上がるので竿を横に倒そうとしたところ、それを嫌ってザバッと水面を割り、大きくジャンプして首を振った(魚の首 はどこかわからないが)。その瞬間にパラッとバレる。クヤスイ。クレイグの見ている前だ。レインボーの45cm程度だった。本流を上がってきた奴かもしれない。

さらに上流ではもっとデカイのがいた。水の中に張り出した数本の木の根が複雑な流れを作っているところの根の下から出た。茶とも黒ともつかない影がフワッと浮かぶ。出た!と一呼吸おいて合わせるが、一瞬の間、魚はかすかに浮いたものの、竿を立てる間もなく、ズズーンと竿が一気に引き込まれ、ビチッという音を残してハリスが切れる。

根ズレだ。これはあっという間でどうすることもできなかった。これはブラウンかもしれない。クリスの見ている前だった。2つもデカイのをバラし、改めて 自分の運の悪さを悔やむ。運ではなく腕の悪さなのだけど。やがてイヴォンとクレイグも帰り、我々は夕マズメのために早めのディナーにする。

ディナーの後は本流テンカラだ。ウェスト・マディソンリバーの3ドル橋(スリーダラーブリッジ)の上下でやることになった。時間は8時を回っているが、今、沈んだばかりの 太陽がモンタナの空を赤く染め、夕焼けの中に周囲の山々が黒い影となり、かすかにポツポツと灯る明かりが家のありかを教えている。

流れは強い。この流れからみて魚が留まる場所は石裏しかないだろう。石は水面に出ていない。ザァーと流れる速い流れが石の上を覆って流れている。一歩づつ前に出る。思いのほか流れが強い。下流をみても、 いったん流されれば止まるところはないので、こここで滑れば間違いなくモンタナで水葬になる。

石裏の流れが10mほどのタルミを作っているところでズンと来た。ダニエルがフッキングした瞬間を撮ってくれた。夕焼けの中で竿がしなるこの写真は私の記念すべき1枚となった。結構でかいぞ。フッキングしてもハネないところからするとブラウンか? でも日本のブラウンのイメージからしてこんな速い流れにいるのだろうか ?

40cmのブラウンだった。このサイズになると特徴的な赤い班点を縁取る白も消え、それらがポツポツを黒い点に変っていた。もうこの1匹で十分に満たされ、これで竿を収めた。まだかすかな夕焼けの残りが青い空との間にあいまいな境を作っていたが、もう十分だった。やがて青黒い空に金星がまたたき出した。

帰途、ダニエルに頼んで山中に車を停めてもらい星を眺めた。まったく明かりのないところで星を眺めるのは初めてだ。空にはこんなに星があったのか。満天の星を横切るように天の川が白い帯となって流れていた。流れ星が一つ、鮮明な光を放って流れた。あした・・、でかいのを釣らせてくれ、という願い をするつもりが、あ!で終わってしまった。このぶんなら明日はデカイのは期待できないかも。明日はボーズマンへの帰りに再度、ギャラティンをやることになった。

Traditional Montanaの風景(動画)

ダニエルが40オーバーのレインボーを取り込む(動画)

スリーダラーブリッジの夕暮れ(動画)