魚の出方は千差万別である。水面にハデにジャンプする奴、水面がモコッとする出方、水中でキラッとしたのも、ラインが止まったのも食ってる!と思って、ソレっと合わせる。しかし、千変万化の魚の出方にその都度こちらの反応を変えることはできない。そこで、一呼吸とか、魚におじぎしてというわずかな間を置いた合わせをすればあらかたの魚にはタイミングが合う。もちろん一呼吸と言っても本当に呼吸したり、魚におじぎするわけではないが、時間を言葉で表現するだけにこのような言い廻しになる。
「でたぁ」の「ぁ」をもう一度飲み込む頃にあおればちょうどいいが、「で」と同時に慌ててあおってしまうのが早合わせである。出たといっても幽霊が出たわけではないので、そんなに慌てることはないのだが。
もちろん、冷静にこれができればいいが、なかなかそうはいかない。初心者ならなおのこと、散々テンカラ三昧を送った私ですらしばしばやる。以前の「釣りロマンを求めて」の撮影でもそうだった。相手は放流魚なので毛バリをくわえるのがヘタなのか、私の毛バリの流し方が悪いのか、2回も出たが空振り。そのうち毛バリの下でチラっとするだけになってしまった。
次第に熱くなっている自分がわかる。掛けるシーンを撮ってもらいたい、カメラマンは撮りたい。2人の期待と願望が異常なパワーとなって、次にガバッと出た瞬間、「で」で強烈な合わせをくれてしまったのだ。ブチッと音がした。ラインがヒラヒラ舞っている。絵に描いたような初心者級の見事な合わせ切れである。顔が赤くなったのがわかったが、テンカラを知らないスタッフは気がつかなかったと思うが、サポートしてくれた倉上さんには見事見抜かれていた。
一呼吸置く合わせが正解であるが、大物だったらもっと遅らせなければならない。デカイ奴はあわてて食わないからだ。毛バリをくわえてスローモーションのように沈んでいく。沈むのを待って合わせればガッチリである。デカイ!と思ったら合わせを遅らせればいいが、デカイ!と思った瞬間にもう手が動いている。動こうとする手を押さえつけることができるようになるまでには数え切れない、早合わせと合わせ切れ、そして地団太と歯ぎしり、眠れぬ夜を過ごすことになる。
キャスティングや流し方のように技術だけでできるものではないだけに、テンカラの重要性の上位にランクさせてもいいと思えるくらいテンカラの合わせは面白い。
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