イギリステンカラ紀行(その2) ロビンフットの森

 

歳から来るボケだけは仕方ないが、前夜、ぐっすり寝たので時差ボケはすっかり解消。さっそく朝めしである。イギリスの食事はまずいというのが定番だがどうしてどうして。まず、スティーブがうさぎの餌と呼ぶ、植物の種や小麦をベースにしたものにナッツ、各種のベリーなどを入れ、これにミルクをかけ、好みでヨーグルトをかけたものが前菜である。日本人ならこれだけで十分。

次に注文をとりにくる。最初なのでフルにした。ベーコン、ソーセージ、豆、キノコ、卵と揚げパン、焼きトマト。黒いのは豚の血を固めて油で揚げたもののようだ。血を食べる習慣がないのでどんなものか。食べてみると結構いける。カスカスしていて見た目ほど重くない。

これ以外にパンは食べ放題なので、朝からゲフッとなる。これだけ食べると、さすがに昼はなしでも十分で、昼はスティーブが持っていたうさぎの餌のポリポリで十分だった。翌日からはフルメニューから選択して注文した。

最初は魚が濃いという川に案内された。プロカメラマンのディーンとこんにちは初めましての挨拶。ディーンは人の良さが顔に出ている好人物である。以降の写真の多くはディーンが撮ったものである。HPのトップの写真は、私の生涯の記念となる素晴らしいものである。

橋の上から覗くと下流でライズがある。でも、水が濁っているし、少し臭い。ポールの話ではこの上流に製紙工場があり20年前まで垂れ流しだったようだ。このため日によってピンク川になったりブルー川になったりしたそうで20年前やっと規制され復活したようだ。

しかし、その名残りと思うが川底はドロで、歩くと濁りがワッと浮き上がる。かすかにドブの臭いがする。イギリスといえば先進国のイメージがあるが、わずか20年前まで垂れ流しだったことに驚く。

ライズを狙えというが、ほぼフラットな流れで、おそらく小さな毛バリでなければ食わないだろう。案の定、12番の定番毛バリはまったく無視される。橋の上は多少の流れはあるものの、誰もが出すような場所ではまったく反応がない。ハハーン! だいぶスレてるな。

そこでフライなら毛バリを流せないような狭いポイントに的を絞る。そして誘いをかける。一発で出る。引きからして35cm程度。おそらくブラウン。しかし、ナチュラルリリース。イギリス最初の魚がバレとは幸先が悪い。

その後に、25cmの初もののブラウンを手にしたところで川を変えるとのこと。正直、早く別の川にと思っていたのでホッとする。

次に案内されたのはダーワンダムに流れ込む川の支流となる狭い川である。この夏、イギリスは大渇水だったらしく、この小川もほとんど水がなく、そのためダーワンダムの水位も非常に低い。なにより驚いたのは川の色が醤油色だったことだ。川の名前は黒い水の川らしい。

この一帯のピート(泥炭)層を流れてくるので水は醤油色になるのだそうである。日本のジンクリアの水からは想像もつかない色である。しかも、大渇水の上に川幅も狭い。本当にここに魚がいるかという小川である。

「いる?」 いるという。「ブラウン?」 そうブラウン。

しばらくすると小さな影がスッと動く。いる! 川の周囲はフカフカとした草つきである。歩いていて気持ちがいい。しかし、身を隠すものがまったくないので姿勢を低くして、遠くからキャストするしかない。0.6のハリスを1.8mに、毛バリを14番にする。

川底はほとんどが岩盤でところどころ段差があり、魚は段差にできる白泡の中に入っているようだ。まず25cmのブラウンが釣れる。いるんだ。原種のブラウン、と魚類学が専門のポールが言う。

狭くて水はほとんどないが、すばらしい環境である。日本ならこの狭さの小川ならブッシュをかぶってとても釣りにならないが、木が高く、毛バリを振る高さには枝が無い上に、周囲が開けているので、毛バリを振るのに問題はない。

なにより深い森の中である。周囲の石は苔むしていて、草はフカフカと深い。膝をつくと、スッと膝が草に沈む。ロビンフットがフッと出てきて、ロビン!と驚くのではないかと思えるほどすばらしい環境である。

この日は3時間ほどの森の中での釣りであった。最大で25cmのブラウンであったが条件がよければ35cmまで出るという。

イギリスはセンチとインチの両方を使うそうだが、センチが通用するのがありがたい。アメリカではその都度、センチを「えーと!」とインチに換算しなければならない。もっとも手を広げて表すのが万国共通だが、どこの国でも広げる手は広くなるね・・・と笑いになる。

緯度が高いので7時半でもまだ明るい。イブニングは8時半からのようだ。

この夜のディーナーは車で40分のインドカレーの店に行く。インド人の経営するカレーショップが多いそうで、日本でなじみのインド料理とは一味違った味である。おそらく広いインドのこと、地域によってインド料理も違うからだろう。うまいが、量が多い。残してしまいいささか後悔する。

イギリスでは私は大食いのレベルではないようだ。皆さん、私以上に食べる。そのせいかデブが多い。アメリカほどではないが高齢者のかなりの人はデブである。とくにオバサンは間違いなくデブである。肉とアブラの多い食事では、歳をとるとデブになるのは避けられないのだろう。

つづく