フライマンのテンカラ

 

フライマンの中にはテンカラが気になって仕方のない人がいる。ならいっそのこと体験してみたらというわけで、開田高原のプチビラおんたけに集まったのがタケダさんとマコちゃんである。マコちゃんと 言っても男である。秋篠宮の眞子さまと関係ある高貴な方ではない。

夕食のときにおひつを抱えるようにして食べる。同類なので、ご飯大好きだなとわかる。塩尻の五味さんといい勝負である。バカ飯なら他人のことは言えないが、訳あって今年、何度めかのダイエット中なので、今回、勝負はおあずけである。

おんたけのオーナーの鈴木さんは、元テンからフライマンになって再びテンカラに転向したという再テンである。フライマンのお客さんが多いが今シーズン、フライをやったのはわずか3回だけとのこと。一度、テンカラをやるとフライは面倒くさくて。そんな鈴木さんの「テンカラはいいよ」という吹き込みで、ならばテンカラをとなった次第である。

まずお願いしたことがある。今日はフライ用語は使わないこと。毛バリをフライ、ハリスをリーダーとか、ティペットと言わない。もし、使ったらレベルラインで百たたきだからね。インディージョーンズのムチより痛いから。

仕掛けの作り方などの話はそこそこに、さっそく実釣である。支度のときに驚いた。マコちゃんが、振り分け荷物のように胸と背中に大きなバックを下げようとしたのだ。それでなくても身体が重いのに、さらに重くなる。

アルプスの救助犬だってそんな大きなバックを首から下げていないよ。必要なのはハリスと毛バリBOXだけ。それも最も小さいのを持ってもらう。

ないと不安なようだ。使うかどうかわからないがあると安心するらしい。保険のようなものなのか。道具に依存しないで必要最小限で工夫するのがテンカラなのだよ。

「フライのサイズはどのくらいでいいでしょうか?」とマコちゃん。

ギロッとにらむ。 フライィ? 今、何て言った! 毛バリでしょ。今のでイエローカード。次に言ったら本当に百たたきだからね。

タケダさんは餌釣りからフライへ転向して10年以上、マコちゃんは8年のフライ歴なので、いずれもキャスティングはすぐに出来て、狙う場所も的確である。フライではキャスティングできないスポットにもピシッとフライが、おっと毛バリが飛ぶようになる。

この日は魚のご機嫌が悪く、実釣の間に釣ることはできなかったが、マコちゃんが夕方、初テンカラで釣ったようなので、テンカラウイルスがブチューと注入されたことは間違いないだろう。タケダさんがテンカラをするかは微妙である。永い間で免疫ができているので、ウイルスを受け付けないかもしれない。 せめて両刀使いに期待したい。

それにしてもこの日はフライマンが多かった。ヒッチハイクして乗せてもらった車には女性を含め4名のフライマン。さらにおんたけの夕食では名古屋からの3名のフライマンである。食後に名古屋からのフライマンにもウイルスの付着した毛バリをたくさん渡したので、それとは知らない彼らはどこかで発症するのではないだろうか。

翌日、偶然にも豊田市のフライマンと知りあいになる。オノさんもテンカラに興味津々で、同じ市内のよしみで私に会えればと思っていたとのこと。では、さっそく行きましょうとマンツーマンで講習である。

オノさんもキャスティングは83点の出来で終了で、さっそく実釣。さすがにフライ歴があるので毛バリの流し方、流す時間、ポイントの見方などをすぐに理解する。ちょっと竿を貸してくださいと、借りた竿でアマゴがポンと。目の前で釣ったので、これほどの説得力はないだろう。

オノさんは、フライにどっぷり浸かっているテンカラのテの字も入る隙間の無い人ではなく、ゆるゆる人なので、テンカラにはまることは間違いないだろう。

フライマンにテンカラの情報が伝わっていないと感じる。もちろん、その逆もしかりで、私だってフライのことはよくわからない。ただテンカラのイメージは元々が職漁師の釣りなので、馬素を使い、魚 、魚、魚。いかにたくさん釣るかが目的の漁師的な釣りだと思われているように思う。

なのでテンカラ専用のレベルラインや、専用竿という進化したタックルを見てもらうと、これまでのイメージが一新されるようである。

それぞれの人がどんな釣りをしようが自由である。テンカラを押しつける気はないが、フライマンの中には、毛バリをとっかえひっかえして、そうでなければ釣れないと思い込んでいる(込まされている)人もいる。 毛バリに悩むのも楽しみの一つであるが、片方で毛バリに依存しないテンカラがあることを知ってほしい。

同じ渓流の毛バリ釣りである。異母兄弟か、いとこの関係のテンカラを知らないのは残念である。テンカラを知ったうえで、フライ を続けるか、テンカラにするか、あるいは使い分ければ楽しみの幅は広がるだろう。

フライマンにテンカラを知ってほしいと思っているだけでは伝わらない。ならば来年、おんたけでフライマンのためのテンカラ講座を開こうと思っている。興味あるフライマンは多いに違いない。