ダニエルの家にはハスキーがいる。名前はシソ。紫蘇の葉からシソとつけたとのこと。左右で目の色が違っていて、グレーと茶色である。かって実家でもハスキーを飼ったことがあるが、最初は両目ともグレーだったが、いつの間にか片方が茶色になった。こんなことは珍しくないのかもしれない。ハスキーの狼のような印象は目がグレーだからである。両方とも茶色なら印象はまったく違うものになるだろう。
「おいで」と言っても通じない。Comeと言えば来る。「おすわり」もダメ。Sitですわる。犬に通じるのだから私の英語もまんざらでもないが、犬にしか通じないところが悲しい。
さぁ、ロッキーマウンテン・ナショナルパークへ出発だ。まてよ入漁券は?
ダニエルがWebでライセンスを買ってくれていた。5日間で31ドル、1日600円。妥当な値段だろう。ライセンスを持っていないと、理由の如何を問わず逮捕とのこと。日本人だから、観光だからなど関係なしである。買うのを忘れた、家に置いてあるなどの一切の言い訳はできないようだ。このためライセンス持ってる? とダニエルから毎回チェックされる。
朝早かったので買えなかったという言い訳はWebで買えるので通用しない。そもそも朝暗いうちから竿を出し、夕方暗くなるまで釣りをするなどクレージーらしい。そんなことしなくても魚はたくさんいるし、他にも楽しみがある。大物を釣ることが誇りであって、数釣ってもなんら誇ることではなく、エキセントリックなことと思われているようだ。
今日はマルコムと15歳の高校生のミーシャと一緒である。マルコムは右脚が義足だった。そして手の指の一部がない。歳は55歳とのことなので、年齢からしてベトナム戦争で負傷したのかもしれない。マルコムがすごいのは義足のまま川を渡り、歩くことである。義足が濡れ、汚れてもまっ
たく気にしない。
しかも、ダニエルの話ではクライミングもするそうである。岩登りである。そこがすごいと思う。あの足でクライミングもするとは。
今日は平日、学校はあってもミーシャはテンカラを選んだようだ。エライ! テンカラは学校では教えてくれないからね。
車はボルダーからほどなくロッキー山脈の中を走る。ロッキーというようにむき出しの岩山が連綿と続く。シルベスタスタローンとは関係ないようだ。
時速100kmで走ること1時間半。前方にたくさんのピークが見える。あの山で4000mぐらいと言うが、富士山より高いという感覚がない。それもそのはず、ここですでに2500mらしい。
こんなに乾いた大地なのに水はどうしているだろうか。どうも雪解け水らしい。ロッキー山脈に降る雪でアメリカの水の1/4をまかなっているようだ。このためいたるところに貯水ダムがあり、ダムの下流の水はどうしても悪くなるのは日本と同じである。
料金ゲートの先がナショナルパークである。ひたすら広大。そして見渡す限り乾燥した草地である。そこを小さい小川がチョロチョロと。ここも一つの源流のなのだろうが高原の平地とあってほとんど流れがない。
ここでやるの? 大きいといっても尺くらいの魚がいるが、まったく毛バリを無視し、毛バリを落とすと逃げる始末である。前に来たときは水が高かったのでよく釣れたんだ
、とダニエル。でもダメだと思うよ。場所変わろうよ。
案の定、ここでは誰も釣れず、もう少し流れのあるところへ。そこは車がブンブン走る道のすぐ横の川で、ところどころは日本の渓流にそっくりである。だが清冽な水とはいかずに薄く濁りがある。土の草原を流れているからだろう。
マルコムは私の釣りに興味津々である。日本から来たテンカラ大王がマジックのような釣りをすると思っているのかも。そんな腕はないよ。今では弟子のダニエルの方が師匠を追い越したのだから。
渓相からしてそんな大きな魚は期待できそうもない。案の定、28cmくらいのブラウンを最大に6匹すべてブラウンで本日終了である。釣り時間は3時間である。もっとやりたいと思ったが、それが一般的みたいで、では次はディナーを楽しもうと言うわけである。
ここには野生のエルクが群生しているというが、一部は観光客の写真のモデルにもなっている。鹿よりはるかに大きい。
大きな角のあるスマートな牛である。観光客に慣れているとは言えオスは危険なようだ。エルクの毛をむしって、それでエルクヘアカディスを作ろうと思ったが、奈良公園の鹿のようにいかない相手である。
この日のディナーはボルダーにあるネパール料理の店である。ここでイベントで通訳してくれるエイコさんと初対面の挨拶。エイコさんは山形市の市役所に勤務していたが、山形市を訪れた姉妹都市のボルダー市役所のケンと知りあいになり、結婚したとのこと。聡明で、思慮深く、そして控え目な、こういう人が日本女性なのですと誇ることができる女性である。
この日は秘書のフェイスと夫も一緒である。フェイス? いつも思うことだが名前が憶えられない。日本なら名字で呼ぶので、漢字も記憶の手ががりになるが、向こうでは名前自体に意味はなく、単なる記号なので(そうでもない場合もあるようだ)手掛かりがないのだ。
フェイスはFaceだろうと思っていたら、Faithだとダニエルが。アルファベットが頭に浮かぶと俄然、憶えやすい。
ここのネパール料理は正直、大雑把であった。野菜の切り方は乱雑で、カレー味に深みがない。
ウエイトレスが子どもをダッコして皿を運んで来る。すごい。小さくて長細く、パサパサの米である。こんな米は食べたことがないので珍しいが、米は仕方ないとして
、それを除けば日本なら開店して1ヵ月もたない店だ。が、一杯のお客さんある。なぜならボリュウムだけはすごいからだ。とても食べ切れずにテイクアウトである。
この日もノンアルコールビールである。いろいろなビールがあるものだ。明日は朝6時出発でコロラドリバーに行くとのこと。今回のハイライトになるらしい。 |