あぁ山形

 

飛行機から見える庄内平野は一面、緑の絨毯だった。水と緑は日本の資源であることを実感する。空港には老眼テンカラ本舗の倉上さんと、町田さんことマッチーが待っていて、オマッチーしていました。そこから倉上さんの車で陸送されて寒河江(さがえ)川に向う。

さがえとあえて書いたのは読めない人が多いからだ。かく言う私も大学時代の同級生に、寒河江から来た寒河江さんがいて「さむかわえ」と読んだからだ。同級生なので、今はすっかりおばあさんになっているだろう。

寒河江川のC&R区間に着いて驚いた。川がガラガラに荒れているのだ。数年前に訪れたときには淵あり、瀬ありでそれなりに楽しめたが、一見してこの荒れ具合では苦戦が目に見えている。案の定、ほとんど魚の反応がない。魚が薄い。

寒河江川のC&R区間は8kmにわたる長大な区間があり、10年以上前にはC&Rの成功事例として紹介され、寒河江に続けと各地にC&Rが出来たその先駆けだった。しかし推進していた人が急逝したのをキッカケに、C&R区間への批判も出るようになり、今は衰退の道をたどっているようだ。

聞けば放流も行なわれず、そのため訪れる人も減り、ひところの勢いは影をひそめ、全国から寒河江詣でのあった&R区間も、残念ながら名ばかりになってしまった印象であった。

収穫と言えば泊まった「朝日 山の家」に多くの種類の毛バリが売られていて、30本で1500円のパラシュートフライがあったので、即買いした。

なに! テンカラでドライフライとな? 道南以来、ドライテンカラも面白いと思ったからだ。毛バリは何でもいいと力説してきた私が今やドラテンである。もっとも、たまにやるだけです。テンカラ毛バリは最強である。

翌日は上州屋酒田店の講習会。4名の参加である。白い高級ベンツの左ハンドルで来た人がいて(驚)、一瞬、怖い人かと思ったが普通の人でホッとする。

簡単な仕掛けの説明の後にいきなり日向川(にっこう)で講習である。近くに月光川(がっこう)があるので、日光、月光で日光川と書くのかと思ったが、日向川と書くことを学校の先生から教えてもらった。

ともに鳥海山(ちょうかいざん 2236m)を源流としている。庄内平野にすっくとそびえる独立峰なので酒田の街のどこからでも眺めることができる。

日向川の講習では最初からギャグ連発で、倉上さんとマッチーが「はい!ここが笑いどころです」と突っ込むので、純朴な東北人もたちまちギャグ慣れして、笑いどころを掴んでくれたので快調だった。

快調だったのはギャグだけで、まったく魚の反応なし。渓相抜群。ややうるみがあるものの水温もよし。なのにどうした酒田の魚たち。誰の竿にも私にも、ひとつのアタリもなく走る魚の姿もない。

2時間やってウンスンである。仕方ないので、釣り大会のために放流されている細い川に移動。私たちはそこで失礼する。参加者の中でイワナを3匹釣った人がいたようだ。

日向川の上流を酒田店店長の高橋さんと詰める。うーん、魚がいない。いても小さい。案内は倉上さんだが情報が古い。前にここに入ったときはいたんだ。この前はいつ? 10年以上前。それ以降入ったことがないとのこと。

登るほど堰堤の区間が短くなるのはどこも同じ。石も水もいい。しかし魚がいない。ここはイワナ域だが、走るイワナの姿はわずかで、しかも小さい。

高橋店長の話ではここまでは放流しないようだ。堰堤の連続なのでその区間だけが生息域となり、入渓しやすく、放流がなく、リリースするのでなければ魚は少なくて当然だろう。

中部からすれば東北には魚が一杯いるように思え、隣の芝生は青く見えるが、もはやそうではないのだ。 青い鳥は遠くにいるのではない。足もとにいる。

日向川源流は酒田市街からも、高速からもわずか30分である。源流と海が近い。鳥海山も独立峰ゆえに渓流は少なく、そのほとんどに林道がついている。魚が減る条件がすべて揃っているのだ。

山形と言っても新潟県境の朝日連峰の八久和などのゴルジュの渓流なら魚はいるだろうが、そこに行ける人はわずかだろう。

あぁ山形。次に来るのはいつになるだろうか。

山形空港は「おいしい山形空港」と名前が変わっていた。たしかに農産物はなにを食べてもうまい。飲むヨーグルトは絶品でこんなに濃いのを飲んだのは初めてだ。ストローで吸っても、ストローが詰まるほど濃い。そして安い。

酒田ラーメンもうまい。さっぱりした味で、量が多く安い。

肉ソバもうまい。そして安い。

安くてうまい山形だった。魚はいなかったけれど。