つり雑誌、テンカラ特集のワケ

 

 

このところつり雑誌でテンカラの記事が増えている。つり人6月号(4/25発売)は4割がテンカラである。今はテンカラのシーズンインということもあるが、渓流釣りはテンカラだけではないのにテンカラ特集である。「渓流春号・夏号」でもテンカラの記事が主流である。

また『山と釣り』の第1号が創刊され、表紙は佐藤成史さんのテンカラ(シンプルフライフィッシング)である。記事にもテンカラがふんだんに紹介されている。

数年前までテンカラが雑誌のメインになることはなかった。つり人社がテンカラを押し出すようになったのには理由がある。6〜7年ほど前であるが、指導を受けたいと2人の記者が石徹白に来た。「テンカラ道場体験記」を書くためである。ともにテンカラの経験はない。

その日は活性が高い日で、お決まりのキャスティング練習の途中からバンバン釣れ出した。もう記事のことを忘れて2人は夢中(のように見えた)。その日、テンカラウィルスが2人の脳にブチューと注入されたのは間違いない。以降、つり人社にはテンカラの記事が急速に増えていった。

これはテンカラの普及に役立ったと思う。テンカラが好きになればこそ記事が書ける。記者と言えども好きな釣り、好みではない釣りはあるだろうから、好きな釣りに力を注ぐのは人情である。

これは1つの雑誌社の事情であるが、当然、雑誌社は読者のニーズを読んで記事を書くはずである。今、テンカラが旬であると感じているからではないかと思う。テンカラ人口が確実に増えていて、今後も増えるだろうと予想してのことだろう。

渓流釣りには他に餌、ルアー、フライフィッシングがあるが、そのいずれも減っているようだ。とくに餌釣りは大きく減っていて、長竿の本流釣り、渓流の餌釣り、ともに減るなかで、とくに渓流域の餌釣りが激減したようである。その中で唯一、増えているのがテンカラである。実際、渓流でテンカラに逢うことが増えた。

シンプルな仕掛け、簡単に入門できる、そしてよく釣れる。ただし、よく釣れるまでには時間がかかるが、初めての1匹の感動は他の釣りにないところが、推奨される理由だろう。

テンカラが紹介されるに従い、多様なテンカラに分岐していくだろう。「テンカラはこうでなくては」「これがテンカラだ」と決めつけることはできない。楽しみの手段には多様な方法があっていい。

6月号には戸門秀雄さんが収集した各地の伝承毛バリが載っている。その前ページにはパラシュートフライの作り方。『山と釣り』の佐藤成史さんの、リーダーとティペットのシンプルフライ。

海外ではTenkara USAのダニエルが純粋に日本のテンカラを伝えたいという一方で、チェコではテンカラはチェコニンフと融合したスタイルにすでに変化しているようだ。

今、テンカラが多様な姿に分岐しようとしているように思う。コピーだけでは創造はない。かっての職漁師の手段だったテンカラは多様なテンカラに姿を変えつつあるように思うが、それを誰も止めることはできない。