朱点のないアマゴ、朱点のあるヤマメ

佐藤成史さんの【瀬戸際の渓魚(さかな)たち】増補版(つり人社)が出たので東日本編、西日本編を読んだ。

これに合わせてつり人社のYouTubeチャンネルで佐藤さんと宮崎大学の岩槻先生による瀬戸際のイワナトークがあったので視聴した。

遺伝子研究がここまで進んでいることに驚き、複雑なイワナの分類からすれば、やれ、ニッコウだ、ヤマトだと一口に言えないこともわかった。

もちろん、釣り人としてイワナの遺伝子解析まで知る必要はないので、なんとなくニッコウかな、ヤマトっぽいで十分である。

なにせ数百万年の間に幾度もあった氷河期と間氷期、さらに地殻変動の影響により複雑な分布になっているようだ。

ではアマゴとヤマメはどうなのかと、川嶋尚正先生の【遺伝的多様性に配慮した渓流魚の増殖に関する研究】を読ん だ。

川嶋先生には2020年2月のテンカラキックオフミーティングで「南アルプスのヤマトイワナとニッコウイワナの見分け方」の講演をしていただいた。

従来、アマゴとヤマメの境界が神奈川の酒匂川とされていたが、川嶋先生の研究により1本の川(ライン)ではなく、伊豆半島というゾーンに境界があることがわかった。

もちろん、過去に一切放流されていない源流の在来魚についてである。

私たちは朱点があればアマゴ、なければヤマメとしている。見かけの区別は朱点の有無しかない。

そこで川嶋先生は静岡県の在来種を写真の5つに分けて調査した。

その結果、富士川以西では朱点があるのが 98%以上と非常に高く、東に行くにしたがって朱点の割合が少なくなり、伊豆半島では西岸では約 78%、東岸では 35%になっていた。

遺伝的多様性に配慮した渓流魚の増殖に関する研究より転載

 

では、朱点がなければヤマメと思うが、川嶋先生の遺伝子分析では伊豆半島の朱点のない魚のDNAを分析するとアマゴのグループに入るという。したがってこれらの魚はアマゴと判断した方が適当とのことである。

最近の研究で、このように朱点の有無があいまいなグループがあることがわかったようだ。つまり遺伝子的にみると、朱点の有無だけでアマゴとヤマメの区別はできないようである。

これは一切、放流されていない在来種の話である。我々釣り人からは朱点があればアマゴ、なければヤマメでいいと思う。

たしかに明らかに放流されていない(だろう)ところで、アレ? ヤマメか?とよく見るとかすかな朱点がポツ、ポツとあるアマゴに出会うことがある。

こういうアマゴもいるのだと、出会ったことがうれしい魚である。一方、全身が朱点だらけのどぎつい成魚放流アマゴもいる。

聞いたところによるとスーパーに出すとき、綺麗な魚、とお客さんが好むのであのような朱点になるように育てるとのことである。あの魚はちょっと堪忍してほしい。

私が初めてアマゴ(おそらく)を見たのは今から60年ほど前である。兄が興津川の鮎の毛バリ釣り(ドブ釣り:ドブは淵)で釣った魚である。オフクロが七輪で塩焼きにして食べさせてくれた。

兄はヤマメだと言ったが、おそらくアマゴだっただろう。当時はアマゴとヤマメの区別はなく、ひっくるめてヤマメと呼んでいたようだ。

朱点のある魚をアマゴと呼ぶようになったのはそれほど昔のことではないと思う。地元、愛知ではアメと呼んでいて、40年ほど前は、地元の人もアマゴという言葉を知らなかった。