黙釣は難しい

 

コロナの感染対策として「黙食」の薦めがある。もぐもぐではなく、もくもくと食事する薦めである。

わいわい、がやがや、おしゃべりしての食事は飛沫を飛ばすからとのこと。

昔、明治36年生まれの親父の口ぐせが「黙って食べろ」だった。親父は飛沫感染のことを知っていたのか。

そんなことはなく、昔は黙って食べるのがいいこととされていたからだ。

食事の栄養科学が進んだこともあって、わいわい楽しく食べようとなったが、黙食で時間が戻ってしまった。もっとも感染リスクが無くなれば、もとに戻るだろう。

黙ってるなら飛沫は飛ばないことから、黙食から始まり今では黙活という言葉まである。

黙って筋トレが黙筋、黙って電車やバスに乗るのが黙乗、黙って入浴が黙浴とのこと。

風呂でうっかり、うぅー!なんて声を出そうものなら、ジロッと黙々警察ににらまれそうである。

黙ってタバコを吸うのが黙煙らしい。タバコはもともと黙って吸うものだろう。煙がもくもくだから、もく煙の方がいい。

黙って飲むのが黙飲になるが、ずっと以前も黙って飲んでいたのだ。「男は黙ってサッポロビール」である。これを知っている人はオジサン世代だろう。

黙って釣るのが黙釣である。家族や釣り仲間にバレないように釣りに行くのが黙行である。

テンカラで黙釣は難しい。出た! しまった!などと思わず声が出てしまうからだ。単独でもそうだから複数ならなおさらである。

 

 

先日は釣り仲間と岐阜県美山漁協へテンカラに。ここの水は綺麗である。

「今日は綺麗な渓流で竿を出せただけでよかった」という釣れない言い訳の一番に出る渓相である。

伏流水で有名な円原川があり、伏流した水が噴き出しているところから始めた。

伏流水なので水温が高く11℃。2月中旬のこの時期にしては高く、あるいはとの期待もむなしくの1時間だった。

こうなれば放流アマゴに期待である。放流場所を探してあちこち移動するがどこも餌釣りで一杯である。

かろうじて人のいない場所をみつけてOさんと入る。Oさんは長いフライ歴があるが昨年からテンカラを始めた。テンカラ2年目に入るがフライ歴があるので上手い。

瀬の中にいるアマゴは瀬を横切るように毛バリを動かすといいとか、誘いのリズム、毛バリのサイズや交換のタイミングなどをアドバイスする。

二人して、出た! 食った! バレた!などで飛沫を飛ばす。黙釣警察がいなくてよかった。

お互い成魚を2匹づつ釣る。放流ものでも釣れると嬉しく、思わずやりました!と声がでる。おっといけない。

完璧に黙釣している人がいた。放流場所からほとんど動かない。8mくらいの竿を60度くらいに立て、掛かると静かに取り込む。

上手い人だ。帰るときに話をした。ゼロ釣法とのこと。おもわず「私もゼロ匹釣法です」と口から出かかった。

ゼロ釣法の竿と0.1号のハリス。餌はイクラとブドウ虫とのこと。今日はここで30匹、下で20匹で、明日も来るとのこと。

そんなに釣って、その魚をどうするのかと黙想したが、聞いても黙殺されるのがおちなので、沈黙した私であった。

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