魚は賢い ー魚にも自分がわかるー

 

ホンソメワケベラ(Wikipediaより)

 

『魚にも自分がわかる』(幸田正典著 ちくま新書」を読んで魚を見る目が変わった。良書である。

にわかに信じられない。えぇ! 本当なのか?と何度も読み返した。魚を見る目が大転換した。魚は賢い。何もわからないと思うのは間違っている。

その土台になるのが今から4億年前の魚の脳の化石である。

化石の分析から現在の人間の脳と、4億年前の魚の脳の構造と脳神経が基本的にまったく同じであることがわかったのだ。

教科書では魚の脳は脊椎動物の中でもっとも単純で、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、霊長類、人類と進化した。大脳新皮質は哺乳類になってから付け加わったとなっている。

しかし、今世紀になってからこれは間違いだったことがわかってきた。

脊椎動物の脳は、大きさや形、内部構造は違っても基本的に同じであり、魚にも大脳新皮質に相当するものがあるようだ。つまり4億年前に私たち人間の脳の基本がすでにできていたことになる。

私たちは鏡を見れば鏡の人物は自分ということがわかる。チンパンジーも鏡に映るのが自分であることは、すぐにはわからないが、やがてこれは自分ということがわかる。

このことは以前から知られていた。チンパンジーは人に近いから賢いのだと。

ところが、さらに研究が進みゾウやイルカ、カラスの仲間のカササギもわかることが知られるようになった。

著者の研究でついに「鏡に映っているのが自分である」と魚もわかることが明らかになった。人間にできることが魚でもできることになる。

魚(この本ではホンソメワケベラ)は、鏡に映る自分の姿をみて、時間はかかるがこれは自分だとわかるというのである。それはチンパンジーが自分とわかるまでと同じような過程をとるという。

にわかに信じられないが、事実であり、著者の思い込みではなく、緻密で巧妙な実験の積み重ねから証明できたとしている。

魚(ホンソメワケベラ)はグループをつくる仲間の顔のわずかな文様の違いで隣人(仲間)と未知の知らない魚かを判別しているらしい。 顔で識別しているのだ。

現在、自分とわかる実験に成功しているのはホンソメワケベラだけであるという。

狭い範囲でなわばりが固定していて、グループの仲間と知らない魚を顔で見分けるというホンソメワケベラの社会性によるようだ。

このため、個々の顔を識別する必要のないイワシやサンマはできないだろうとしている。おそらく渓流魚もできないのだろう。

魚は錯視図形をみれば私たちと同じように錯視するという。痛みも感じる。魚は私たちが思う以上に賢いことは間違いないようだ。

魚の脳は反射の引き金である刺激があれば決まった行動が起きるとされているが、そんなに単純ではないのかもしれない。

管理釣り場やC&R区間では毛バリにすぐにスレるが、毛バリが偽物ということをわずかな経験からわかってしまうのではないだろうか。

自然渓流でも毛バリをくわえる寸前でプイッとUターンするのがいる。しまったバレちゃった。

バシャ! よし食った! スカである。食ってない。よく見ると毛バリをまたいだり、毛バリの直前でひっくり返っている。これは毛バリを食い損なったんだ。

魚は賢いとするなら、食い損なったのではなく、どこかでこれは餌じゃない、オカシイ? 違う!とわかってする行動なのかもしれない。もちろん私たちが「思う」「考える」とは違った「わかる」であろうが。

何をもってわかるのかが、わかればヒット毛バリは間違いないのだが。

興味がある方はぜひ本書を。魚の見方が変わって魚の味方になるかも。