桂川を釣る

 

山梨県都留市を流れる桂川で竿を出した。都留市で居酒屋「またぎや」を営む小次郎さんの案内である。

立川から桂川に20年通ったそうである。

それならいっそのこと桂川の流れる都留市に移住したら、いつでも釣りができるじゃないか。

移住してから居酒屋が5周年になるとのことで、そのお祝いも兼ねてのことである。

同行は今年からシマノ・インストラクターになった大沢さんである。

前夜は食って、飲んでシマノの話やあれこれでワイワイと。

ノンアルビール2本と水1杯飲んだだけなのに、その夜のホテルで夜中に3回もトイレに。暑いので冷房をかけていたからだ。

この季節、自宅では冷房をかけて寝ないのでどんなに飲んでもトイレには起きない。

ということは不感蒸発で夜中に水分が大量に蒸発しているのだ。フトンを干さなくては。

それはさておき、暑くて日中は釣りにならないので早朝の釣りである。朝5時、日の出とともに竿を出す。

桂川は初めてである。聞いていた話では放流があって魚はたくさんいるが、なにせ街中を流れるのでゴミが多い。

冷蔵庫ヤマメもいるよ? 冷蔵庫からヤマメが飛び出すからだそうである。

そんな情報しかなかったが、富士山の湧水が水源とのことで、噂から想像していた流れと異なり澄み切っていて、ところどころバイカモも。

本物のカモもいた。あっカモ!とそちらに目をやったとたん、浮石を踏んでまた転んだ。いいカモになった。

 

 

小次郎さんは誘いのテンカラをするとのこと。どんなテンカラなのか、どんな毛鉤を使うのか。

毛鉤は毛虫毛鉤である。ハリは10番程度。6番くらいのも。胴には孔雀をたっぷり巻いてその上から白い羽根を薄めにざっくり巻いている。

この毛鉤しか使わないとのこと。釣れない言い訳を毛鉤のせいにしたくないから、は潔よしである。

これまで多くの人の毛鉤をみてきたが、毛虫毛鉤(ゲジゲジ毛鉤)を巻く人はほとんどいない。

さらにこれしか巻かないという人は小次郎さんが初めてである。

竿は今は市販されていない某社の軟調竿を使い、グリッブ部は硬調竿に自作改良グリップをつけたもので3.6m程度である。

ラインは市販の撚り糸テーパーライン。仕掛けは全長で5〜6m程度でそれほど長くない。

竿を45度くらいにからときにより水平に寝かせ、終始、誘いをかける。一定のリズムがあるわけではなく、ときおり、メンディングして毛鉤の位置 や流れ方を変える。

誘いのテンカラは岐阜の天野さんが有名である。長いおつきあいの中で、何度も一緒に釣りをして、その過程で天野さんの誘いの釣りを解析した。

天野さんの場合は竿は3.2mの軟調で、自作テーパーの撚り糸を使い毛鉤まで8mと長い。

竿を聖火ランナーのように高く掲げ、終始、ほぼ1秒×1回のテンポで3回誘う。毛鉤がその場で上下するように動くイメージで。

天野さんのフィールドである益田川(飛騨川)、馬瀬川といった広い渓流では8mは必須であるし、短く、軽い軟調の竿はあのポースで振り続けるために理にかなっている。

では小次郎さんが誘いの釣りをするのは何故か。また、あの毛虫毛鉤を使うのはなぜ?

超有名河川の桂川は関東の庭のようなもので釣り人が絶えない。とくにフライマンが多いとのことで、スレた魚に手こずる人が多いようだ。

そうか。自然渓流ではあるがひっきりなしの釣り人で魚はスレている。その点ではC&R区間のようでもある。

ならば、誰もが使う毛鉤ではなく、誰もがやらない誘いのテンカラを長い経験から導き出したのではないかと思う。間違っているかもしれないが。

この日、早朝からにもかかわらず、子どものヤマメが釣れただけである。余りの暑さで親は避暑に出かけ、留守番の子どもが相手をしてくれた、としておこう。

その日の夜、小次郎さんから写真が。35cmを越えたと思われる見事なヤマメである。

親が避暑から帰ってきたそうで、子どもに相手をさせて申し訳ありませんでしたと言ったとか。

初めての場所におしかけ、遠くから来たのだから相手をしろと言われても、魚にも都合があるので、まず釣れない。

場所を知り、時合を知る地元の人にはかなわない。

桂川、ベストシーズンに再度、訪れたい川である。