渓流魚の警戒心 |
テンカラをやってみたい人が増えている。渓流釣りの半分をテンカラにしたいのが私の夢なので可能な限り応じている。 テンカラは難しい釣りではない。魚の活性があって毛バリが狙ったところに落ちれば釣れる。 こう書くと簡単だが初心者にはハードルが高い。狙うところがどこなのかわからない。わかってもそこに毛バリを落とすキャスティングができない。 わかり、できるようになるにはある程度の経験が必要である。 連日、釣り人が絶えない渓流のアマゴ、ヤマメ、イワナの警戒心は強い。釣り人の動き、竿やラインのわずかな動き、バシャバシャと歩く音、石のゴツッと擦れる音で警戒する。 このため細心の注意で毛バリが届く射程距離に入らなければならない。必要なら姿勢を低くし膝をつく。 大方は近寄り過ぎである。あるいは遠くから何回も打ってやっと本命のポイントに毛バリが落ちる。その間、とっくに気づかれている。 接近戦を避けるにはラインを長くすればいいが、キャスティング精度が落ちるので、可能な限り仕掛け(ライン+ハリス)を短くしてピンスポットに落とす接近戦の方がいい。 音をたてないようにネコ足で、太極拳の動きで移動する。ただ初心者には魚がそんなにシビアなことは知らないので、バシャバシャ歩くのは仕方ないことである。 このような渓流魚の敏感な警戒心は釣り人によるものである。連日の釣り人から逃れ、命を繋ぐには敏感にならざるを得ない。 このように考えるには理由がある。 人の怖さをしらないところの魚はまったく警戒心がないからだ。 台湾の2500m高地のニジマス ここは台湾のほぼ中央。標高2500mで高原野菜を作っている謝さんの農場を流れる渓流である。カナダから発眼卵を移入したところ繁殖したようだ。 謝さんの農場を流れる渓流なので謝さんの川であり、謝さんの魚である。このため謝さんの許可がなければ釣りをすることができない。 ほとんど誰も釣りをしない。ニジマスはいくらでもいる。そのため釣り人にも、毛バリにもまったく警戒しない。おそらく初めて毛バリを見るに違いない。 こんな魚なので、毛バリがポトッと落ちると何匹もワァと寄ってくる。一番早かったニジマスがパクッ。 離さない。モゴモゴ。餌と思ったけれどなんか変? それでも離さないので、ホラ、離せ!と何度も竿をあおるとやっと離す。ウブな魚ばかりである。 私が来たことを知ってテンカラを体験したいと男性が。もちろんWelcomeである。いつものようにキャスティングから教えようとした。見本を見せてから、はいやってください。 当然、毛バリは飛ばない。ほんの数メートル先に毛バリが落ちる。あぁ そのキャスティングではダメと....という前に釣れてしまった。 やりましたと私をみてニッコリ。その後もワナワナ落ちる毛バリにつぎつぎ掛かり、男性は大喜びである。ここなら「これでいいのだ。バカボンだ」 カリフォルニアのゴールデントラウト ダニエルの案内でヨセミテ国立公園の近く(おそらく)のゴールデントラウトを釣ったときのこと。ここも標高2000mを越えているようである。 ここも釣り人は少ないというか、ほとんどいないようだ。 ちょっとしたたまりでのこと。ここのゴールデントラウトも毛バリが落ちると次から次に寄ってくる。毛バリを見るのは初めてかもしれない。 人の子も魚も、子どもは好奇心が強い。小さいのから毛バリをくわえる。 合わせない。モゴモゴして毛バリを吐き出す。それを他の魚がくわえる。それを見て大きいのはゆっくり離れるが遁走はしない。 尻尾にニジマスのような斑点があるが体側にはない。背中にもない。体側にはヤマメのようなパーマークと虹色の帯がある。腹はマンゴー色で体側は光の加減で金色に見える。全体に金色のヤマメのようである。 2つの経験から本来、人の怖さを知らず、毛バリをみたことのない渓流魚はまったく警戒心がない。いいかえれば渓流魚の鋭い警戒心は釣り人によるものなのだ。 命をつぎに繋ぐための本能なのだろう。その経験が子どもに伝わり、その子どもがまた次に....と敏感な警戒心の強い渓流魚が生まれるのではないかと思う。 魚は大きいほど警戒心が強い。警戒心が強いからこそ大きくなったからだ。 ピリピリする張りつめた中で警戒心の強い大物を掛けたときは最高に面白い。とくに接近戦で。 |