煙たい話(2)

 

タバコはロシアンルーレット

煙たい話(1)を読んだ数人のテンカラ仲間から、実は私もタバコを止めました、止めてよかったというメールが来た。「そだね」よかったね。カーリングもよかったね。

私がタバコを吸い出した1966年は男性喫煙率は84%だった。あれから50年たち、この間タバコの健康影響の研究は進み、タバコの害は確定的となっている。

しかし、喫煙者は「俺は大丈夫だから」と思っている、と言うか思いたい。実は怖い。臭いものには蓋を、怖いものには目をつぶり見なかったことにする。タバコはロシアンルーレットである。引き金の先には弾があるかもしれない。

人はさまざまなリスクを抱えて生きている。自分の力ではどうすることもできないリスクもあるが、タバコは自ら超ハイリスクを抱え込むことである。タバコの害は、私たちの知識や想像をはるかに超えるものである。

最近、加熱式タバコが出てきた。出たばかりなので健康影響はまだ明らかではないが、すでにいろいろな影響が報告されている。

紙巻きタバコの害である。喫煙者はニコチンが欲しい。ニコチン欲しさにタバコを吸えば、同時に様々な有害物質を吸入することにになる。

タバコの煙の中にはおおむね5000種類以上の化学物質が含まれていて、うち200種類以上が有害、70種類以上に発ガン性がある。

喫煙者が吸う主流煙と、置きタバコの副流煙では成分はほぼ同じである。しかし、副流煙はフィルターを通さないため、有害物質の量は主流煙に比べて、たとえばニコチンで2.8倍、タールで3.4倍であり副流煙の方が高い。数十倍になるものもある。

高温のガスを吸ったりはいたり

タバコを暗がりで吸うとチリチリと音がして真っ赤に燃える。この時の温度が900℃である。昔、まだ暗視スコープがない頃、スナイパーの標的はタバコの火だったという。火を狙えば兵士に当たる。それくらい真っ赤である。その高温のガスがフィルターを通して身体に入る。

その1でも書いたが、昔の学生の高級タバコだったピースの両切りはフィルターがなかった。だからまともに吸いこむのできついタバコなのだ。くらくらするので吸った感があった。トントンと叩いて葉の密度を濃くすると、より強く感じ、吸った感が増した。

900℃のガスがフィルターを通り、口に入る頃にはおおむね100℃である。この高温の有毒ガスが喉を通り、食道と気管支に分かれる。一部は食道から胃へ。気管支を通ったガスは肺まで達し、今度はその逆の順で身体の外に出る。これを1日に何百回と繰り返すのが喫煙である。

昔、ケツから煙が出るくらい吸っていた頃は、深く深呼吸すると肺の奥まで達したことがわかるくらいに、胸がギュッと熱くなるのを感じた。

こんな高温の有毒なガスが出たり、入ったりを繰り返すのだから、当然、いいはずがない。まずガンである。タバコの煙に直接さらされる部位のガンの寄与率(原因率)は極めて高い。

肺ガンの原因の72%

タバコと言えば肺ガンである。肺ガンは72%である。喉頭ガン(のどぼとけのあたり)が96%、咽頭ガン(のどちんこの奥のあたり)が65%、口腔ガンが58%、食道ガンが48%である。これらは煙に直接さらされる部位である。

肺ガンが72%というのは、タバコを吸っている人の72%が肺ガンになるという意味ではなく、肺ガンの原因の72%がタバコという意味である。タバコを吸わなければ肺ガンのリスクを大きく減らすことができるのだ。

さらに全ガン(すべてのガンの平均)では33%がタバコである。つまり、タバコはガンの原因の1/3を占めている。タバコを吸うリスクはこんなにも高いのだ。

喉頭ガンは96%ということは、原因のほぼ100%がタバコである。いいかえれば、ここのガンに罹るのはほぼ喫煙者である。このことから喉頭ガンになった1160人の本数と喫煙年数を調べ、どのくらいでガンが発生するかを調べた研究がある。

「本数/日×喫煙年数」を調べると平均で1134であった。このことから1200が目安とされている。

20本/日で60年、40本/日で30年である。俺は20本だから60年は大丈夫。20歳から吸い出したから80歳か。それなら寿命と同じだ、だったら大丈夫と思うのは甘い。

この研究では最小で475、最大で1793だったからだ。1200はあくまで平均である。自分が平均なのか、最悪で475、運よく1793なのかは誰にもわからない。

運悪く475だったら最悪である。20本で25年である。20歳から吸い出して45歳である。

自分がどうなのかは誰にもわからない。うちの親父は90歳までバカバカ吸っていたのだから俺も大丈夫だ。世の中には天寿をまっとうした人がいる。ならない人もいるのだから俺は大丈夫は強がりである。

誰にも保証がない。タバコはロシアンルーレット。引き金の先に弾があるかもしれないが、俺は大丈夫と思いこみたいだけである。

タバコで年間13万人、受動喫煙で1.5万人が死ぬ

私のテンカラ仲間もバタバタと肺ガンで亡くなっている。テンカラ界で著名な人も肺ガンだった。タバコが手放せなかった。自分でも肺ガンになるかもしれないという不安をしばしば口にしていた。

私が新車を買って数ヵ月。当然、禁煙車である。そこに乗った人でタバコを吸ったのは後にも先にも彼一人である。すみません禁煙・・と言う間もなく吸い出した。仕方ない・・・

タバコにより年間13万人が死ぬと推計されている。肺ガンで3.6万人、血管がつまることで起きる虚血性心疾患で2.4万人、脳卒中で1.1万人、その他である。

吸っていたのだから仕方ないとも言えるだろう。しかし、タバコが他の薬物と異なるのは吸わない人にも受動喫煙の害を及ぼすことである。

覚せい剤、ヘロイン、コカインなどの麻薬はその本人だけの問題である。幻覚や、麻薬を買うために犯罪をおかすことはあっても他の人に健康影響を及ぼさない

ところがタバコには受動喫煙の害がある。日本では受動喫煙で年間1.5万人(厚労省発表、JTから反論あり)が死ぬと推計されている。交通事故の死者数が29年度で3.7千人である。

交通事故の死者数が戦後最小になったなどはメディアで報道されるが、受動喫煙で1.5万人が死ぬことは報道されない。

自分が吸わないのに、他人のタバコで1.5万人が死ぬのである。こんな理不尽なことはない。喫煙者にはこの事実をわかってほしいのだ。

他人のタバコで死ぬのはあなたかもしれないのだ。非喫煙者はタバコの煙を吸わないようにしなければならない。

テンカラ仲間のあんた、わかったね。

あんたは空気のいい渓流で吸うからうまいと言うけれど、その煙で大迷惑しているんだ。まわりの人の寿命を縮めているのだよ。

1本で14分寿命が縮まる

こんなタバコなので喫煙者の寿命は短い。男性で20歳ごろからタバコを1日20本吸いだした人が35歳になったとき、あと何年の余命があるかという計算がある。

吸わない人に比べて8年寿命が短い。なんと8年もである。1本吸うと14分、20本で4.8時間寿命が縮まるのだ。吸ったらすぐに死ぬわけではないので、タバコは怖いものとは思わないが、確実に死に近づく。

別に寿命が短くたっていいや、太く短く生きるんだと言う人もいるが、健康状態が悪い状況で生きなければならないのだ。8年の差は大きい。

仮に20本/日としよう。おおむね420円なので月に1.3万円、1年で15.6万円、30年でおおむね500万円である。

30年の間に500万円を灰にして、健康をそこね、ガンにおびえ、周囲にも被害を及ぼし、煙たがられるのがタバコなのである。

ここまで追いつめられている喫煙者の最後の言い分は税金である。タバコは6割が税金なので、俺は税金を納めているのだと胸を張る人がいる。

ちょっと待った。図を見てほしい。これは年間の収益と損失を比較したものである。タバコの税収は年間で2兆円程度である。

 

2兆円の税収は大きいが、それにもまして支出が大きい。まず医療費である。この医療費はタバコを吸ったために罹る肺ガンなどの医療費である。タバコがなければこの医療費はいらない。

いわゆるタバコ病の医療費で3.2兆円が必要である。さらに寿命が短いことから、もっと働けるのに働けない損失で2兆円である。

つまり、いくら税金を払っている、と胸を張ってもタバコ病の治療だけでも税収をはるかに上回る医療費が必要なのだ。

どうだ!なんて胸を張るんじゃない。つまり、どこからみてもタバコに勝ち目はないのだ。

タバコの値上げ

四面楚歌である。タバコには勝ち目がないが止めることが難しいのには、単に個人だけの問題ではなく社会的な理由がある。

それはタバコが400円程度と安くて入手が簡単なことである。さらに社会的に容認されているので、健康影響を別にすればタバコを吸ってもなんら問題はないことだ。

タバコは覚せい剤のように値段が高く、入手が難しく、所持しているだけで犯罪になる薬物ではない。

しかも、一服する7~10秒で至福感を得られるという即効性である。これが酒のように飲んで30分ぐらいたたないとハッピーにならないなら吸う人は少ないだろう。

つまり、タバコを止めようにも止められない条件が揃っているのだ。一番の効果はタバコの値上げである。1000円なら止めようという人が多いというアンケートもある。

オーストラリアでは2020年にはおおむね3000円になるらしい。ゼミの女子学生に喫煙者がいた。オーストラリアに留学していて、帰国しましたと先日、挨拶に来た。

現地ではタバコが高くて禁煙していたけれど日本は安いのでまた吸い出しましたとのこと。バカモンとタバコをとりあげ、ゴミ箱に捨てた。そして煙たい話(1)を読ませた。おそらくもう吸わない思う。

5Kg太ったからとマスクをしていたが、マスクからはみ出るように顔が大きかった。タバコを吸わなかったから太ったというが、ジャンクフードの食べ過ぎだろう。

タバコを吸うと痩せるのではなく、胃腸の消化吸収が悪くなるので太れないのだ。止めると食べ物の味はおいしくなり胃腸がよくなる。平均2.3kg太るというデータもある。太れる身体になったのだ。

止めると食べ物の味がよくわかる。タバコを吸う料理人の味は信用できない。

タバコの煙に近づかない

海外ではタバコは高く、日本のタバコは非常に安い。420円は高いという人がいるが海外では多くが1000円以上である。日本人の収入からすれば日本のタバコは相対的に安い。

1000円にして、税収を高くすれば止める人は多いだろう。もちろん、そう簡単ではない。消費が減るのでタバコ生産農家の収入が減るし、JTにも影響が大きいので、一気にはならないだろう。

となると自身で断煙するしかない。禁煙すると非常に強い吸煙衝動が来る。半年たっても1年たっても来る。吸いたい・・ 冷汗が出たり、呼吸が苦しくなる。夜中に吸っている夢を見ることもある。ともかく辛抱である。これしかない。

タバコの煙が不快になれば大丈夫である。タバコの煙を心地よいとか、他人の副流煙を深呼吸するようなら断煙まで遠い。タバコの煙に近づかないこと、タバコを薦められても絶対に手を出さない強い意思があれば可能姉妹である。

断煙の先にはすばらしいことが待っている。テンカラの上達もその一つである。集中力がまるで違うからだ。それまでタバコがなければ集中できなかったのが(そういう身体になっていた)、タバコがなくても集中できるのだから。

止めてよかった、美味しい渓流の空気を吸ってテンカラが楽しいと言うテンカラ仲間が一人でも増えればと思っている。