アマゴの電光石火を測る(その1) | |
一部、自粛解除の県が出て、自粛生活にも明るい日差しが。テンカラができる日も近い。 暇人(ひまんちゅ)なので、暇にあかせて私のテンカラ研究を振り返ってみた。テンカラマンの参考になることがあるかもしれない。 大学教員だったので(今年3月に退職)、研究の発想と実験装置を作るのはお手の物である。 確率5.5% 私がテンカラの研究を始めたのは今から38年前である。趣味の研究なので大学教員としての業績(ポイント)にはならない。 教員の研究業績は 大学により異なるが、学会発表、審査された論文、論文が引用された件数、専門分野の著作などでポイント化される。 テンカラ研究はテンカラを始めて7年目からである。当時は渓流で誰一人としてテンカラに逢うこともなく、ビデオもない時代である。 他人のテンカラを見る機会がないのだ。まわりにテンカラをやる人もいない。今からは信じられないくらい誰もやらない釣りだった。 唯一の手がかりは「渓流のつり」の杉本英樹さんの「ヤマメの毛バリつり」である。ヤマメ(アマゴ)は水面に出る、その瞬間を掛けるのが毛バリつりと書いてある。 実際、地元でもアマゴが対象で(当時、イワナはいなかった)、本のとおり水面にバシャッと出るアマゴは素早く、なかなか掛からない。サイズは15cmから大きくて23cm程度である。 あまりに出れども掛からないので、掛かる確率はどのくらいかを数回にわたり計算した。なんと5.5%である。100回出て5匹しか掛からないのだ。 パッと出てパッと毛バリを離すアマゴの速さは「電光石火」と呼ばれていた。またたく間である。瞬目(まばたき)は0.3秒なので、その程度か。 もちろん、毛バリにバシャと出たアマゴのすべてが毛バリをくわえているわけではないが、あまりの速さに目ではわからない。 いったいアマゴの電光石火はどのくらいの時間なのか、くわえている時間を測ってみよう。 アマゴの速さがわかり、さらに釣り人が「あ!出た」と合せる時間も測れば掛からない理由がわかるだろう。 今なら超スローデジタルビデオで簡単に測ることができるが、38年も前のことである。家庭用ビデオカメラもまだ普及していない時代である。そこでどうするか。 そうだ。光センサーを使えばいい。毛バリの胴の代わりに小さい光センサーをつけニクロム線をハリス代わりにする。 光センサーが口の中に入れば暗くなり、口から出れば明るくなるので、オシロスコープで増幅し、波形を記録紙に描けば時間が計測できる。
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自然渓流では無理なので、地元の神越渓流マス釣りセンターの養魚場をお借りした。電源がないので発電機も用意する。 最初、毛バリを水面上1cmくらいをスッ、スッと動かしてもアマゴがまったく反応しない。 おかしい? そうか、発電機の震動が地面に伝わり、それが養魚場の魚への振動になっているのだ。遠ざけると反応するようになった。アマゴは敏感である。 アマゴだけでなく、イワナ、ニジマスの魚種の違いも調べた。何日も足を運びある程度のデータになった。 電光石火は0.2秒 その結果が図である。アマゴが空中で毛バリをくわえている時間の約8割が0.1秒台である。細かく言うと0.18秒であるが、丸めて0.2秒である。 この時間は反射時間である。我々でもヒザをポコッと叩くと足が上がる膝蓋腱反射もおおむね0.15秒くらいの時間である。脳を介していない脊髄反射である。魚も人も反射時間は変わらない のだろう。 つまり、アマゴがパシャと出て毛バリをくわえ、毛バリを離すまでの時間は最短で0.2秒である。電光石火が0.2秒であることがわかった。 図でわかるように、アマゴは圧倒的に速い。イワナ、ニジマスと比較すると速さは、アマゴ<ニジマス<イワナである。実釣でもこの順は納得する。 イワナの方がニジマスより長い間毛バリをくわえている。 これは光センサーによる結果である。本当にアマゴは0.2秒で毛バリを離すのか映像で確認したい。しかし、当時のビデオでは0.2秒を映像化できない。
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そのとき、NHKから「ウルトラアイ」で私の実験をもとに番組をつくりたいという話があった。 テンカラの実験を月刊「つり人」に6回にわたり連載していたので、それをみたNHKの毛バリ釣りの好きなディレクターがこれは面白い、ぜひ番組にしたいとのこと。 願ってもないこと。「ウルトラアイ」は当時のNHKの人気番組で、月曜夜7時半からの視聴率25%の30分番組である。当時はほとんどが30分番組である。 アマゴが毛バリをくわえている0.2秒の撮影は滋賀県醒ヶ井養鱒場で行った。NHKは当時の撮影機材の総力をあげて、毛バリをくわえて離すまでを撮影した。 その瞬間の映像を図にした。毛バリをくわえ、吐き出すまで0.2秒が映像により証明されたのだ。アマゴが毛バリをくわえて0.2秒で離す。電光石火は0.2秒、まばたきより速い。 ウルトラアイの放送は1985年5月、今から35年前である。スタジオの収録は山本素石さんと私だったが、素石さんが前の週に九州の椎葉で足を捻挫してしまい、急遽、「右田の逆さ毛バリ」の右田さんになった。 素石さんとお会いできず、以後、お会いすることができなかったのがつくづく残念である。 つづく
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